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3. 方向幕の文字・色と技術

さて、いよいよ本題です。
方向幕というのは行先表示に使われる媒体です。ということは、行先や経由地が正しく伝わるように表示されなければ意味がありません。
そのための工夫がさまざまな形で見られたのが、方向幕の最大の特徴といえそうです。そこで、「方向幕で表示すること」の技術を追いかけてみたいと思います。

文字の密度の違い

方向幕のデメリットについては、フィルム幕を制作するコストが多額で、表示内容を改めるのが事業者にとって大きな負担となっているという点が挙げられます。その点においては、確かにLEDディスプレイが優れていることに間違いがありません。
しかしかといってLEDディスプレイが万能かといえば、そうでもありません。デメリットの一つに、所詮はLEDという小さな光源が密集しているだけの表示装置ですので、表示できる文字情報の解像度に限界があります。夜間など、オレンジ色のイルミネーションとなってしまっては意味がないのです。
そこで、まずはこの行先表示の表示密度に着眼してみようと思います。
この写真は、仙台市交通局のフィルム幕では最大級の密度の表示だった、W11-5系統の表示を出しているバスのものです。文字情報としては、W11-5系統であり、大学病院・貝ヶ森団地・国見ヶ丘・中山台を経て、実沢営業所を目指す系統であることが読み取れます。
また、ローマ字も付記されているため、NAKAYAMADAI・SANEZAWAと、最終目的地だけはわかります。
おまけに、よくよく見ると「実沢(営)」の上に「さねざわ」と読み仮名が振られています。仙台市交通局の方向幕でルビが振られていた表示は決して多くはありませんが、こればかりはLED化と共に完全消滅したものでした。
文字の密度がかなり高いため、文字情報を読み取るのは容易ではありません。しかし、適度に文字の色を使い分けることで一種の絵として行先が目に飛び込み、通勤通学で日常的にこの系統を利用する場合は、すぐに他の系統との識別ができるような工夫がなされているといえるかと思います。
他方でこちらの表示は、宮城交通名物ともいえる、経由地の一切ない仙台駅前という行先表示。側面の方向幕も、「北仙台」「県庁・市役所前」「仙台駅前」の文字しか表示されていないという、シンプルなことこの上ない表示です。

この双方を比較すると、やはり方向幕のポテンシャルを活かしているといえるのは上述の仙台市交通局のごちゃごちゃした表示なのかもしれません。何しろ、LEDディスプレイでは実現させるのが困難なほど、多くの文字でびっしりと埋めた表示を実現させているのですから...。

色の使い方

単色のLEDディスプレイでは実現しないのが、複数の色を使うということです。
なんといっても宮城交通の方向幕は行先ごとに色を分けていましたし、仙台市交通局でも経由地が特殊な系統などでは文字の色を変えるなど、ちょっとした工夫が施されていました。
ここでは、こうした色の使い方について注目してみようと思います。
上の写真2枚は、同じ「急行」系統でも事業者が変われば...という好例です。宮城交通では急行を青文字表記(ただし2004年以降は赤文字を使用する)、他方の仙台市交通局では急行を赤文字表記としていました。
ところが「快速」になるとどちらの事業者も赤文字表記を選らんでいます。なお、宮城交通で「快速」と明記された方向幕を使用する系統は限られており、この南富谷サニータウン発快速仙台駅前行きが唯一であると思われます。
宮城交通と仙台市交通局では、それぞれ同じ行先でも経由地が異なる場合、経由地の文字の色を変えて識別することがありました。
宮城交通の場合は、大年寺経由が青文字、他方の根岸・鹿野経由(=鹿野橋経由)が朱文字となっていました。
続いては仙台市交通局の場合ですが、代表的なのは北仙台経由が青文字、山手町経由が朱文字という例でしょうか。他にも複数の「対となる系統」で色分けをしていました。

カラフルな宮城交通の方向幕の魅力

さて、宮城交通のカラフルな色つき方向幕は、これだけでも一つのコンテンツが作れるほど話題性が豊富です。そこで、幕が巻き取られている様子を眺めていて楽しい時代を振り返りつつ、このカラフルぶりを写真で楽しんで頂ければと思います。
飯田団地行きは朱色に白文字でした。上述の「仙台駅前」の表示と並んでシンプルな表示でしたが、名取営業所および村田営業所の一部車輛のみ経由地標記がありました。 山田自由ヶ丘車庫行き、仙台南ニュータウン行き、日本平行きは青地に白文字でした。またこの写真は二色混在の好例で、先述のとおり鹿野橋経由の系統であるため経由地標記が朱文字でした。
秋保温泉行きは緑地に白文字でした。茂庭台団地行きもこの色でした。 川内亀岡行きは山田自由ヶ丘車庫行きなどと同じ青地に白文字でしたが、一部紫地に白文字となっていた幕もありました。大学病院経由は緑文字、広瀬通一番町経由は青文字でした。
動物公園・西の平方面へ向かう長町ターミナル行きは、異色の白地に茶文字でした。 市役所前行きは仙台駅前行きと同じく紫地に白文字でしたが、こちらは上述の川内亀岡行きとは逆に、一部青地に白文字となっている幕もありました。
朝夕のみ運行される「東二番丁直進」の系統は、このように青文字に白文字で特記されていました。一部紺地に白文字の幕もありました。 松森団地行き、明石台団地行き、向陽台団地行きは茶色地に白文字でした。
虹の丘団地行き、宮城学院行きは飯田団地行きと同じ朱色に白文字でした。 鶴が丘ニュータウン行き、松陵ニュータウン行きはこの紫地に白文字でしたが、仙台駅前行きのそれよりは色が薄く、八木山南団地行きと同じ色だったようです。

このとおり彩り鮮やかな宮城交通の方向幕ですが、行先ごとに決められていた色を表にまとめると下表のようになります。
行先・経由地など色の組み合わせ
地色文字色
仙台駅前行き、市役所前行き 紫(暗)
【南方面】川内亀岡行き、山田自由ヶ丘車庫行き、仙台南ニュータウン行き、日本平行き
【北方面】泉パークタウン車庫行き、加茂五丁目北行き
【南方面】秋保温泉行き、茂庭台団地行き
【北方面】将監団地行き、鷹乃杜行き、鷹乃杜北行き
【南方面】飯田団地行き
【北方面】宮城学院前行き、虹の丘団地行き
【南方面】八木山南団地行き、日赤病院行き
【北方面】鶴が丘ニュータウン行き、松陵ニュータウン行き
紫(明)
【南方面】西の平行き
【北方面】向陽台団地行き、明石台団地行き、松森団地行き
虹の丘団地行き(ただし、みずほ台経由八乙女駅行きまたは泉中央駅行き)
動物公園経由長町ターミナル行き
東二番丁直進
大学病院経由
広瀬通一番町経由、霊屋橋経由
鹿野橋経由
動物公園経由

方向幕の修正あれこれ

ところで、ダイヤ改正のたびに内容が刷新される方向幕ですが、必ずしも毎回すべてを作りなおして交換しているわけではありません。
やはりお値段の都合というモノがあるのです。使わなくなった部分を新しいものと交換したり、不必要な標記を消して修正したり、そんなことをして意外と長く大切に使われています。
特に宮城交通のその修正のテクニックは一つの文化だと思いますので、ここでそのいくつかご紹介してみようと思います。

Step 1 文字を消す
文字の消し方には様々な方法がありました。左上は溶剤を使って文字を消したケース、右上は紙をセロテープで貼り付けて文字を消したケース、左下はクラフトテープを貼って文字を消したケースです。
見た目がもっとも美しいのは溶剤を使って文字を消す方法ですが、この作業ではバスから一度方向幕を外す手間があります。ダイヤ改正前夜の準備時間は限られていますから、この方法はなるべくならば使いたくない、というのが現場の考え方なのでしょう。
右下の写真は、側面方向幕をたわませて、溶剤で文字を消す作業を行なっていた車輛の写真です。側面方向幕下の窓から、車内にべろんと延びた方向幕が見えるかと思います。溶剤を用いる作業なので、春先の寒い季節ではありましたが、扉を全開にして換気を良くしてから作業をしていました。

Step 2 文字を書き込む
文字を書き込む方法はさまざまです。一番多いのは特注のシールを貼る方法で、目を凝らしてよくよく見てみると、左上の写真のように透明なベース部分が目立つ箇所があります(写真の場合は「泉ヶ丘」の箇所)。
シールは右上の写真のように、当該箇所のみを修正できる最小限の大きさとなっています。
そして、修正が必要な方向幕の本数が、シールを特注するほどでもない場合は、手書きで対応しています。
左下の写真は村田車庫、右下の写真は名取営業所の車輛のものですが、どちらもそれぞれの意味で味わい深い字ですね。

Step 3 番号を修正する
継ぎ足しを行なった場合には、方向幕の番号を修正する必要があります。これは、車輛の転配歴によって車輛ごとに方向幕のコマの順序が異なることがあるからです。
蛇足ながら、右写真はそのように車輛ごとに方向幕の内容が異なることを表している例で、車輛備え付けの方向幕早見表も一台単位で作られていることがわかります(赤丸の箇所に「1890」の文字が入っています)。


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