2005年7月改訂
 

このページは「気動車ってどんなんだろう?」って思う方は勿論、自称"気動車通"の方々にもさらに興味深くなっていただけるよう、私の機械設計の経験を基に、車輌を製作する側の立場で書かれています。私は「気動車はエンジンだけで走行性能が決まる」という考えを修正していただきたいという願いをいつも持っています。そこで色々な方々から伺った話や、実物の観察(五感?を駆使して楽しく観察します…これ一番楽しい)を通して、皆さんが気動車に乗って体験したことが気動車のどういう動作であったのか、可能な限り易しく表現するように心がけました。「気動車が速く気持ちよく快適に走るためには?」聞かれたとき、何より「エンジンをフルパワーにすればよい」と思っている方々には、是非とも最後まで読んでいただきたいと思います。


次のような流れで解説は進みます。本文中にエンジンの”馬力”を”出力”と置き換えて表現している箇所がありますが、同じ意味と解釈されてもかまいません。

1. 気動車の床下を観察してみましょう
  1) 機器の役割を頭に入れておきましょう
  2) 走行用エンジン
  3) トランスミッション
  4) トルクコンバーター
  5) 逆転機(逆転機構)
  6) ラジエーター
  7) コンプレッサー
  8) 発電機
  9) 燃料タンク
 10) プロペラシャフト
 11) 終減速機
 12) 台車
2. 気動車が動くには
  1) エンジンの力はどのような経路を辿るのでしょう?
  2) 効率よく加速するための仕組み
  3) トルクコンバーターの種類
  4) 発進時の大トルク〜トルクコンバーターの性質
  5) でも何かおかしい〜トルクコンバーターの違い
  6) 終減速比とエンジンの関係
3. 車輌に要求されるもの
  1) 必要不可欠なものとは
  2) 特別な仕様
4. いよいよエンジンとトランスミッションの選定です
  1) 搭載される車輌の目的
  2) 沿線の線形
  3) エンジン馬力の決定
  4) トランスミッションの選定
  5) メンテナンスのこと
  6) 燃費って重要です
5. より快適な走行を…CCSの役割
  1) はじめに
  2) 手動変速
  3) 半自動変速
  4) 自動変速
  5) CCS付き自動変速
  6) CCS付き半自動変速
  7) さらなるスピードアップへ
6. 終わりに


それでは実際に解説していきましょう。理解し難い表現があるかと思いますが、出来る限り飛ばさず、最後までお付き合い下さい。


1. 気動車の床下を観察してみましょう          <Indexへ戻る>

1-1) 機器の役割を頭に入れておきましょう
基本的には我々が日頃目にしているトラックやバスと同じと考えた方が良いと思います。自家用車であってもエアーコンプレッサーが無いくらいで、何れもバッテリーを持っていますし、セルモーターだって必ず装着されていて、エンジンに付いている付属機器は殆ど変わらないはずです。ここではいちいち比較しませんが、自家用車を所有されている方なら”僕の車と同じなんだ”と常に比較してみることがキハを理解する近道だと思います。

あれこれ言っても仕方ありませんので、まずキハ110を例に床下機器を覗いてみましょう。エンジン、トランスミッション、ラジエーター、コンプレッサー、発電機、燃料タンク、プロペラシャフト、終減速機、台車、まだまだ沢山付いています。これらの中で1つでも欠けたなら気動車は走ることが出来ません。図にはキハ110をひっくり返したものをイメージしてみました。各機器の位置がどこにあるか判りましたか?エンジンは色々な付属機器と一体となっていることに気付くことでしょう。あなたの自家用車にもきっと取り付けられているはずです。

キハ110の床下機器

1-2)走行用エンジン
これがなければ気動車と言えませんね。でもエンジンは走るためだけではありません。ブレーキをかけたり、エアコンを動作させたり、電力を賄ったりと、エンジンは走行用以外に色々な力を分け与えなければならず、実際の走行用として分担されるエンジンの出力は、皆さんが思っているより意外と小さいものです。国鉄型のキハ28やキハ65などはこれを嫌って、冷房電源の発電用エンジンを走行用とは別に搭載していたわけです。現在の気動車は、 上図のように全ての動力源を1つのエンジンから取り出すようになっています。まずエンジンの軸が車輌の前後両方に出ていること自体、意外だったと思われるのではないでしょうか。

軽量ボディに高出力エンジンは現在の気動車の基本スタイル
(写真はカミンズディーゼル NTA855型)

1-3)トランスミッション
エンジンを心臓に例えるなら、トランスミッションは内蔵でしょうか。エンジンの力を無駄なく走行する力に変換する装置、トランスミッションをいいかげんに選定すると、折角の高出力エンジンも無駄になってしまいます。ここには多くの歯車とクラッチが入っていて、走行状況に応じて歯車の噛み合わせを変えながら減速比を変え、エンジンの回転力をうまく車輪に伝えています。DF115DB115TC2系列は、1対1の直結運転しか行いませんし逆転機構もありませんので、走行用の減速歯車は入っていません。

1-4)トルクコンバーター
トランスミッションの内部に入っているもので、構造を簡単に言えば、羽根の付いた洗面器状の器をを正面合わせにして、内部に油を満たしていて、一方の羽根はエンジンと一緒に回り、もう一方はプロペラシャフトに繋がっています。 このトルクコンバーターのお陰で、気動車は滑らかな発進と急勾配の起動を可能にしています。

1-5)逆転機(逆転機構)
逆転機とは何をするかというと、車輌の進む方向を切り替えるためのもです。エンジンは逆回転出来ませんので、ギアを一枚余計に噛ませることによって軸の回転を逆にさせています。DF115系やTC2系では終減速機に逆転機構が付いていましたが、DW系では逆転機構をトランスミッションに内蔵し、終減速機を簡素化しています。
 



右側の三角形の形をしたものがエンジン、その左側に合体しているのがトランスミッション
(キハ110のトランスミッションは、旧新潟コンバーター製 DW14A-B型)

1-6)ラジエーター
エンジンやトランスミッションをガンガン動かすと、人間もそうであるように、熱が溜まってきます。適度に冷やしてあげれば元気を取り戻すのは当然ですね。でもこのラジエーターを駆動するのもエンジンの負担となります。ラジエーターはエンジンから直結で駆動したり油圧で駆動したり、車種によって様々です。



内燃機関に欠かせないラジエーター このファンを回すのもエンジンのロス

1-7)コンプレッサー
ブレーキをかけたり、警笛を鳴らしたり、ドアの開閉をしたりする動力は圧縮空気が頼りです。キハ110では冷房用のコンプレッサーもエンジンに直結されていますので、冷房を効かせるとこれまたエンジンの負担となってしまいます。

1-8)発電機
自家用車と同じように自分が使う電力を自分で賄わなくてはなりません。これもエンジンの負担です。



エアーコンプレッサー、発電機、冷房用コンプレッサーはエンジンからの直結駆動

1-9)燃料タンク
その名の通り、ディーゼルエンジンを動かすための軽油が入っています。ガソリンが入っているのではありません。

1-10)プロペラシャフト
トランスミッションと終減速機を繋ぐにはこれが必要です。ユニバーサルジョイントと呼んでいるかもしれません。トラックに付いているものと目的は同じです。トラックとは同じエンジン出力でもちょっと太めかもしれません。エンジンの出力が大幅アップすれば、プロペラシャフトも強化しなくてはならないこともあります。

1-11)終減速機
駆動台車の車軸に付いていて、自家用車やトラックにも"ファイナル"という言葉で馴染みがあると思います。エンジンの力はトルクコンバーターや減速ギアでトルク(回転する力)を増大させられ、終減速機に伝達されます。この装置は高トルクとレールからの衝撃荷重が加わりますので、特に強靱な材料で作られています。最高速度は大体この減速比が操作されています。特急車輌の最高速が高いのはこの減速比を低くしているためで、その分加速力は落ちてきます。電車の減速比と同じ考えです。(第2章で説明します)



車輪の内側に少しだけ見えるのが終減速機、キハ110は2軸とも終減速機が付いています

1-12)台車
台車は乗り心地や高速運転のためだけのものではありません。駆動台車には終減速機が一体となっていて、動力を伝達する一部分にもなっていますので、エンジンの出力をアップしたなら、当然強度検討の対象となります。キハ58などの場合は逆転機構がここに付いていましたが、現在はそれが無く、逆転機構はトランスミッションに内蔵されています。
 

"走る""止まる"はこれにかかる エアサスは今や常識 だが底突きが目立つのが×


2. 気動車が動くには          <Indexへ戻る>

2-1) エンジンの力はどのような経路を辿るのでしょう?
車輌を動かすための機器はどんなものがあるか、どのように動作するのか簡単なイラストを交えて解説していきましょう。図はキハ110をモデルにした床下配置図です。エンジンの力は図の経路を辿って走る力に変換されます。

走行のための機器
(説明のために簡略化しています)


ここで、トランスミッション内には、トルクコンバーターと呼ばれる油を溜めた部屋があり、その中には羽根車が入っています。エンジンと一緒に回る羽根車と、プロペラシャフトと一緒に回る羽根車があると考えてください。 エンジンの回転を上げると油が掻き回されて動力が伝わる仕組みになっています。そのため、車輌を発進させるときにエンジンの一番おいしい回転域を使えるというのが特徴です。"トルク"とは軸を回そうとする"回転力"のことで、雑巾を絞るときのような"力"のことを言います。"コンバーター"は"変換する"と言う意味で、気動車では"小さなトルクを大きなトルクに変換する"と覚えると良いでしょう。

気動車を発進するためにはマスコンのノッチを上げて、エンジン側の羽根車を勢いよく回します。そうすると油が掻き回されて、プロペラシャフト側の羽根車も回り始めます。俗に言う"変速運転"とか"コンバーター運転"と呼ばれ、運転台のインジケーターは"変"や"変速"に点っているはずです。皆さんが気動車の発進時に「グオォォッー」と迫力ある音を聴いたことがあると思いますが、それがまさにトルクコンバーター内の油を掻き回している瞬間です。

DWやTACNなどと呼ばれるトランスミッションには、このトルクコンバーターの他に、逆転歯車減速歯車湿式多板クラッチが組み込まれていることを覚えておいてください。キハ110のDW14A-Bは勿論それらが組み込まれています。

2-2) 効率よく加速するための仕組み
トルクコンバーターの油を掻き回すと油の温度がどんどん上昇していきます。ということは油を冷やさなくてはなりません。そのためにオイルクーラーというものが車体に搭載されていて、熱エネルギーを大気中に放出してトランスミッションの温度上昇を抑えます。結果としてエンジンの動力がここで奪われてしまい、いつまでも変速運転をし続けることは燃料の無駄になります。

そこで車輌がある程度加速してきたらエンジン側とプロペラシャフト側の羽根車を"クラッチ"というもので固定させて、エンジンの回転をダイレクトにプロペラシャフトに伝えるようにします。これが"直結運転"です。運転台のインジケーターは"直"や"直結"が 点灯します。現在では直結でも減速歯車を噛ませて、直結1段2段3段…と人間が階段を上るように減速比を換えて、加速性の向上や燃費低減を実現しています。

ここで雑談。気動車の加速力を測りたい…そんなことありませんか?録音機材とあなたの"運"があれば、大体の加速力を測定できます。その前に気動車の発進時に一気に5ノッチを投入する運転士を見つけましょう。そうしないと全速力で加速してくれませんから。では速度計の見えるところで録音の準備をします。いよいよ発車です。5ノッチ投入と同時にマイクを叩きます、そしてスピードメーターを凝らしながら5,10,15,20,25km/h…を過ぎる瞬間にマイクを叩きます。目標の速度に到達したら録音終了です。家に帰ってパソコンにwavファイルとして録音します。その波形を観察するとマイクで叩いたところが良く判るはずです。その時の時間も解ります。もうお解りでしょう。MicrosoftExcelのようなものでグラフを書くのも良いでしょう。ちなみにキハ110は条件が良ければ0〜50km/hを約23秒で到達するそうです。となると単純な平均加速は、50/23=2.17km/h/sですね。3段型トルクコンバーターの特性は発進時のトルクが強く、速度が上がると次第に弱くなるので、発進時の加速力はこの数字よりもっと高いと推測されます。しかし、車種によっては空転を避けるために、CCS(後述しています)などによって加速力を抑えていることもあるようで、最新の車輌が一番強い加速力を持っているとは言えません。以上雑談でした。

2-3) トルクコンバーターの種類
トルクコンバーターの形状や羽根車の構成は、様々なものがあります。大きく分類すると"3段型"と"1段型"に分類できます。そして各々はエンジンの出力に応じて細かく分類され、羽根の大きさや枚数が異なります。例えばDB115、DW14A-B、N-DW15、DW21Bで、すべて異なる形式のトルクコンバーターが搭載されています。それぞれエンジンの出力に見合ったものが選定されているということです。私もどこがどう違うかは今のところ不勉強で、うまく説明することが出来ませんが、国鉄型気動車に多く搭載されていたTC2やDF115の3段型トルクコンバーターは、小さなエンジンでも大きな起動トルクを得ることができますが構造が複雑になっています。資料館や博物館にカットモデルが置いてあることが多いので、このことを思い出しながらご覧になるのも良いでしょう。

2-4) 発進時の大トルク〜トルクコンバーターの性質
「気動車は電車に比べて加速が悪いので、急勾配の起動は不可能である。」そんなこと言っている方に朗報です。トルクコンバーターは起動時にはエンジン定格出力の3〜5倍位のトルクを絞り出すことが出来るので、空転さえしなければ発進は殆ど問題ありません。この時のトルクを"ストールトルク"と言います。

「カランカラン…」のサウンドが心地良い国鉄タイプのエンジンを例に、簡単な計算をしてみましょう。最大出力で200PS×1800rpm位、連続定格出力は180PS×1500rpmですね。発進時はトルクコンバーターの性質上、最高回転は得られませんので、仮に130PS×1300rpmの出力が得られるとして、ストールトルク 比が5倍とすると、トランスミッション出口では、

130×716.2/1300×5=358.1 kgf-m

となります。この時点で皆さんの所有している自家用車の最大トルクと比べてみてください。「俺の車は280PSだぜ」と言っても気動車の最大トルクには到底及びませんよ。これは列車を起動するときに発生するトルクですから、乗用車とは比較にならない莫大な力であることが判ります。これに終減速比3を掛けて車輪半径430で割れば、概算で車輪の円周力が出てきます。

358.1×3×1000/430= 2498.4 kgf

この数字が走行抵抗を無視した、車輌の引っ張り力です。皆さんが何らかの手段で入手した引っ張り力曲線と比べてみてください。大体合っているでしょう? この力は1つのエンジンで発生するものですから、2エンジンでは2倍となり、非常に大きな力であることが解ります。気動車は空転の問題がなければ急勾配における気動車の発進は意外と楽なんです。むしろ軸重や動軸数が少ないことによる空転の方が問題で試行錯誤が練られており、調べると面白いかもしれません。




非力なエンジンでも急勾配の起動はお手の物

2-5) でも何かおかしい〜トルクコンバーターの違い
キハ65とキハ58のゴールデンコンビ。現存しているのでしょうか?キハ65は公称500PSに対してキハ58は360PSなのに、次のような妙な体験をされたという方がきっといるはずです。

1.連結面を見ていると発進時はキハ58に押されているよなぁ
2.キハ40やキハ65はエンジンがガンガンうるさいのに発進しないなぁ
3.案外非力なキハ28でもスルッと発進するよなぁ

そんな体験をした覚えはないでしょうか?これらが3段型トルクコンバーターと1段型トルクコンバーターの違いの現れだったのです。キハ28、58などに搭載されているDF115AやDB115は3段型トルクコンバーター、キハ65、キハ40などに搭載されているDW9、DW10などは1段型トルクコンバーターが搭載されています。各々の特徴を下の表に紹介します。車輌毎の変速運転から直結運転に切り替える速度(シフトアップ目安速度)に注目しましょう。トルクコンバーターの性格が違うためにシフトアップのタイミングが異なります。特急用車輌など、終減速比が低く設定されている車輌は単純には比較できません。

<< 着眼ポイント >>

1. 1段型トルクコンバーターはストール時の回転数が高 く、発進時にエンジンの最高回転域のトルクを引き出せる性質を持っています。 元気良く発進するときはエンジンの回転が高くなります。ストールトルク比は3〜4倍です。
2. 3段型トルクコンバーターはストール時の回転数が低 く、発進時にエンジンの中高速回転域のトルクを引き出せる性質を持っています。 元気良く発進するときでも、1段型ほど回転数は上がりません。ストールトルク比は約5倍です。
編成 トランスミッション形式 トルクコンバーター ストールトルク 発進時回転数 変速使用域 シフトアップ目安
キハ40系のみ DW10 1段型 小さい 高い 広い 60km/h
キハ65のみ DW9 1段型 小さい 高い 広い 60km/h
キハ58系のみ DF115A, TC2A or DB115 3段型 大きい 低い 狭い 50km/h
キハ40系キハ58系混結 混合 混合 混合 混合 狭い方に
合わせる
50km/h

違いが解りましたね。これはDW9やDW10のトルクコンバーターは高回転型で、ストールトルクは小さいが高速まで引っ張れる性格を持っていること、DF115AorTC2AorDB115は低速トルクは大きいが頭打ちが早いことによるものです。混結ではどちらも無理の無いように安全サイドで運転するのが慣例となっています。しかし、両形式でも終減速比を変えられた車輌は例外ですからご注意を。”快速みえ”用のキハ58やキハ65の5000番台車が良い例で、終減速機を変更して最高速を上げていたため、シフトアップ速度は高かったと記憶しています。

となると、気動車の登坂特性で、仮に「20パーミルで5ノッチ均衡速度65km/h」とした場合、それが変速運転であれば トルクコンバーターの常用域としては速度が高すぎますので、終減速比が低いのではないか?と推測を立てることが出来ますね。

また、 DW14系を搭載したキハ85とTACN22-1600系を搭載した2000系でどちらの発進加速が良いか…そう聞かれてまずエンジンの馬力を比べるのは早合点です。3段型トルクコンバーターのキハ85と、1段型のトルクコンバーターの2000系とで比べるべきです。初速のグイ押しはストールトルク比の大きいキハ85の方が断然上です。現在は様々な高出力の車輌が登場していますが、私の所見ではDW14系を2台搭載した車輌が一番起動加速力に優れていると思います。 ただし、3段型トルクコンバーターは部品点数が多く高価であるため、近年では載せ換えなどの特別な目的以外は使われなくなりました。

それに対して1段型トルクコンバーターは部品点数が少なく安価なので、ストールトルクが3段型より劣っているにもかかわらず、現在の主流となっています。直結多段化で大きな減速比が取れるようになり、低い速度で直結にシフトアップすることによって、1段型の欠点を補うようになって いるからです。


解りにくい文章をダラダラを読まされるのは不快だと思いますので、気動車の牽引力カーブを見ながら雑談していきましょう。鉄道、道路を走る乗り物は全て走行性能を図にしてユーザーにその性能を理解して貰います。横軸を車速、縦軸を牽引力とすると図のように右下がりの線図が出来上がります。電車のカーブと比較してみてください。電車は途切れのない滑らかなカーブであるのに対して、気動車のカーブは途切れ途切れとなっていますね。 実状、エンジンは約700rpm(一分間に700回クランクシャフトが回ります)から約2000rpmの間しか使えませんので、速度に応じたギヤ比に切り換える必要があります。国鉄型電車は0rpmから約3500rpmまで力を発揮してくれるので、ギヤは一段しか必要ありません。図の牽引力カーブは1段型トルクコンバーターを装着した変速1段、直結2段の速度段を持つトランスミッションのものと考えてください。変速段はトルクコンバーターが流体を掻き回して得られる滑らかな曲線、直結段はエンジンの性能曲線と同じような台形の曲線に書き表されます。



牽引力カーブ

ストールトルクの場所はコンバーター運転の一番左端、牽引力が最大の場所に当たります。これが3段型トルクコンバーターの場合はもっと高い位置にありますが、速度が上がるとトルクの落ち込みも早いので、カーブはこれより急勾配になります。さて、コンバーター運転は速度が上がってくるにつれて直結1段の曲線に近付いてきます。近付けば近付くほどギヤの繋がりが良く、切換ショックも少なくなります。ただし、コンバーター運転は効率が悪く燃料消費が多いので、出来るだけ早く直結1段にシフトアップした方が効率的です。

次に注目して欲しいのは直結1段と直結2段の牽引力の段差です。この段差が大きいということはギヤ比の差が大きいということを意味しています。図は最高速を伸ばすためには減速比を出来るだけ低く持ってきていることがポイントで、その限界はエンジンのトルク(回転力)でほぼ決まります。以上を総合して判断すると、この車輌は直結1段で勾配線を力強く走り、平坦路でガンガン飛ばしたいという製作側の意図が見えてきますね。その弊害として、直結1段から直結2段へのシフトチェンジは慎重に行わないと切換ショックが出やすくなるとも言えます。

2-6) 終減速比とエンジンの関係
終減速比についてもうちょっとお話ししましょう。多くの方々がこう思っているはず…
「120km/hの最高速を130km/hにしたいときは、エンジンの出力を上げればいい」
その考えは一理あることですから、あからさまに否定しません。しかし、それだけで済ませてはいけないということを理解してほしいと思います。注目すべき点は5つあります。

1.エンジンの最高出力
2.エンジンの最高回転数
3.使用線区
4.余剰駆動力
5.減速比

ちなみに、最高時速95km/hの国鉄型気動車の終減速比は約3、それ以上の最高速をもっている車輌はさらに減速比を下げているためです。エンジンの出力の違いだけで最高速が決まるという考えは大きな間違いですので改める必要があります。残念ながら、多くの鉄道誌にはまずこの考えが書き加えられていません。

まず予備知識として、エンジンの最高出力がどうやって上げられているかを考えてみます。同じエンジンメーカー、同じ排気量、同じ気筒数で350PSx2000rpmというエンジンと420PSx2000rpmというエンジンがありますよね。現在は排気タービンでコンプレッサーを回し、吸気圧力を高める過給器(ターボチャージャー)が当たり前で、エンジンの出力を上げようとする場合、過給圧を高めて酸素量を増して燃料噴射量を最大限に増して上げれば、エンジンの出力を向上することができます。しかし、そうすると低回転域では排気タービンを勢いよく回せないことになり、燃料をたくさん噴射しても黒煙になるだけで、結局は一番大事な常用回転域(低中速域)の出力低下に至ってしまいます。黒煙を吐くということは燃料が蒸し焼きになっているということで、硫酸のなどの有害な化学物質が発生して、エンジン内部の消耗を早めたりといった弊害が出てくるのが普通です。最高回転数で高出力を出そうとすればするほど、使い勝手が悪くなるということになります。

それから、エンジンの最大回転数を見れば解るように、2000rpmで最高速を得ていたものに幾ら高出力のエンジンを持ってきても、同じ2000rpmで回したら同じ速度ですから、最高速が向上するわけがありませんね。したがって、どこかで減速比を変えてあげる必要があります。ただし、今まで仮に勾配線区で幾ら頑張っても1900rpmしか回転が上がらなかったのなら話は別で、エンジンの出力アップによって余剰駆動力が増して、エンジンが2000rpmまで回せることになれば最高速アップにつながるでしょう。しかし、エンジニアはエンジンの最高回転数まで回らないようないい加減な設計はしないはずです。

余剰駆動力とは読んでその名のごとく、エンジンが持っている余裕であり、これがあるからこそ列車は加速します。余剰駆動力が大きければ大きいほど力強い加速が得られますが、燃料が無駄になったりエンジンが高価になったり耐久性が犠牲になることもありますので、その車輌に最適なエンジンが選択されることになります。

特急車両の最高速はとても魅力的ですよね。しかし、気動車に限らず、その最高速を実現するがために加速力と登坂力を犠牲にしているということを、キハ65とキハ181系を例に採って比較してみましょう。

95×1000/60/(0.86×3.1415)×3=1758.2 rpm

これがキハ65が95km/hで走っているときのエンジン回転数です。車輪直径860mm、減速比3で計算するとこんな結果になります。エンジンの連続定格回転数は1600rpmですから、95km/hでは110%の回転数、つまり、めい一杯(エンジン最大回転により近い状態)でエンジンが回っていることになります。これをキハ181系の120km/hまで最高速を上げるには、終減速比を変えてあげる必要があります。では エンジン回転数1758.2rpmを維持して、120km/hを出すためにどれだけの終減速比を必要とするか計算してみます。

1758,2×(0.86×3.1415)/1000×60/120=2.375

となります。キハ65の終減速機の歯数比を2.375と小さくすれば、120km/hの最高速を出すことが可能となります。もしキハ181系の減速比に関する資料をお持ちでしたら比較してみてください。殆ど違わないはずです。

納得していただけたでしょうか?エンジンの最高回転数を同じくして、終減速比を操作したことによって120km/hに到達することができましたが、ここで注意していただきたいのは、余剰駆動力の考えを無視したエンジンの回転数だけに着目した計算方法ですから、実際には終減速比の変更でどれだけ引っ張り性能が低下するかを考えなくてはなりません。2-4)発進時の大トルクで使った式を思い出してください。キハ65、キハ181系のエンジンは500PS×1600rpmで、 仮に発進時にこの出力が得られるとし(実際は異なります)、DW9およびDW4のストールトルク比は3倍とすると、トルクコンバーターを介したトルクは、

500×716.2/1600×3=671.4 kgf-m

です。キハ65もキハ181系もここまでは同じですね。それでは各々の終減速機を介した車輪の円周力を比較すると、キハ181系は発進時の力が劣ってしまうことになります。

キハ65 : 671.4×3×1000/430=4684 kgf
キハ181: 671.4×2.375×1000/430=3709 kgf

いかがでしょうか。最高速を追求すれば加速力(引っ張り力)が犠牲になってしまうことがお解りになったでしょうか?これを解消するためにはどうしたらよいか。DW14系以降に 量産された、直結多段式に行き着くことになります。そろそろ脳がが沸騰してくる頃だと思いますので、少し話題を変えましょう。


3. 車輌に要求されるもの          <Indexへ戻る>

3-1) 必要不可欠なものとは
最初に述べた床下機器はどれをとっても不可欠なものですね。それでは何が要らなくて済むものなのか?車輌を設計するとき、扱いにくければ何もならないわけで、まず色々な人間の立場になってどんな車輌にするか検討されます。そして不要な物(装備)は排除されます。のんびりと走るのに発進加速に優れた車輌を作る必要はありません。そんなことより安全に移動でき、誰もが乗っていて便利で楽しく、手間の掛からない車輌を目指す…恐らくこれが車輌開発の原点と言えるでしょう。オールマイティな車輌が望ましいですが、気動車は懐事情のよくない会社が所有することが多く、それぞれの会社が要求する事柄も違ってくると思います。

1.加速力
2.登坂力
3.燃費
4.メンテナンスフリー
5.耐久性
6.低公害車輌
7.使用目的
8.車輌価格

すべての項目を満足させることは大変難しいことでしょう。特に車輌価格は一番重視されるところで、「価格で負けた」なんてことがないように車輌の標準化に力を入れているのは、鉄道車輌だけでなくバス、トラック、自家用車にも言えることです。新潟鐵工や富士重工(現在は2社とも 気動車車輌会社として存在しません)の軽快気動車が全国各地でみられるのはそんな理由の一つだと思います。

そして、車輌を末永く維持するためには、燃料や摩耗部品の補充や交換にも目を向けなければなりません。これは避けられないことで、いかにその周期を延ばすかを検討したり、部品を簡単に交換出来るようにするには、エンジニアと車輌会社とユーザーが要望を持ち寄り、納得のいくまで話し合います。なお、部品の交換にはどうしても人間の手間が掛かります。
メンテナンスと言っても、
1. 部品検査
2. 診断
3. 工事計画
4. 工事実施
の4段階にも人間の手間が掛かるわけですから、全部の部品を一度に交換する計画を立てると列車を運行する日数が削減されてしまいます。昔は全般検査という長期工事を持たせていましたが、大量の人間と車輌の遊び日数が発生してしまうため、近年では各々の機器の交換周期をずらすなどの工夫をして、可能な限り検査は短く、車輌の遊び日数が無くなるように考え方が変わってきています。

他にもイベント目的や観光客を呼び込もうとした場合、吊革&ロングシートでは悪評を高くするばかりです。それを防ぐためには開放感を高めるような座席配置を考えたり、窓の大きさを大きくしたりして独自性を持たせたりします。けれどもあくまでベースは車輌メーカーの標準的な軽快気動車として、最小限の改造にとどめているのが現状ではないでしょうか。漫画のキャラクターを車輌に描いたり、車輌前面をかわいらしい動物を連想させるような顔に塗り替えられたりして、少しでも乗ってみたい気持ちを駆り立てる努力が見られますよね。端的に言えば”ウリ”が存在しなければ乗客はどんどん逃げてしまうということです。ただでさえ乗客のいないローカル線を走ることが多いのですから、車輌の価格だけを重視した”詰め込み列車”という感情を利用客に抱かせてしまったら、いつまでも赤字は続くでしょう。

3-2) 特別な仕様

1.振り子
2.2エンジン
3.エンジンブレーキ
4.ワンマン機器
5.フランジ給油器
6.砂撒き器
7.耐寒耐雪構造

エンジンブレーキは、よく「取り付けられた…」という言葉で表現されています。実はそう表現するのは妥当ではなく、「マスコンを切っても直結状態を維持するような回路を追加した」というだけです。下り勾配を高速で下るとき、マスコンを"切"位置に戻しても直結状態を維持して燃料噴射を止めれば、ディーセルエンジンが空気を圧縮する行程が負荷となり、ブレーキの働きをしてくれます。キハ110であれば運転台の"抑速1" ボタンがエンジンブレーキで"抑速2"ボタンがエンジンブレーキ+コンバーターブレーキです。何れも直結2段の減速比で動作して、エンスト防止のために45km/hで自動的にカットされます。この装備は平坦路線を走行する列車には殆ど不要です。しかし、車輌の標準化という意味で現在は全車に装備されています。国鉄型気動車は特に線区に応じて各地で改造されいて、変直切換レバーを中立位置にしてもエンジンブレーキが利くようになっている車輌もあります。 エンジンブレーキの解除を忘れたときのエンスト防止機能もあちこちで確認出来ます。

話が脇道に逸れました。冷房や暖房も今や当たり前の装備ですが、地域によっては耐寒設備が強化されていたり、容量を大きくしたり、車体の保温構造も考慮されています。便所、ワンマン機器、砂撒き機なども線区によって必要となります。振り子車輌は急曲線を乗り心地良く早く走るための特別仕様ですね。これらはエンドユーザーと車輌会社が何度も打ち合わせをして、その線区にあった仕様を決定づけたり、実際に納入された後で必要となり、改造されたりするものです。人間にとっても車輌にとっても便利で楽しく優しい乗り物でなければなりませんので。



車輌特性が地域に密着すれば自ずと利用者が増えるはず


4. いよいよエンジンとトランスミッションの選定です          <Indexへ戻る>

4-1) 搭載される車輌の目的
開発コンセプトです。車輌をどんな風に仕上げるか、動力性能、外観、内装など一般鉄道誌に書かれていることは皆さんご承知の通りです。しかし、この場で伝えたいのは、色々な装置を動かすことで生じる"問題点"を出さないために考えられていること。その中の一例を挙げてみます。
"コスト"と"メンテナンス"という言葉は聞いたことがありますよね。直訳すると"価格"と"維持"です。メンテナンスの詳細は後で述べることとして、価格について少し考えてみましょう。身近な自家用車はエンジンの出力が上がれば上がる程価格も上がってきますね。気動車も同じことで、出力を上げるには気筒数を増やしたり、過給器の圧力を上げて燃料噴射量を増やしたりなど、鎬を削っています。仮にキハのエンジンの出力を上げたとしましょう。案外簡単に出来るかもしれませんが、2-6) 終減速比とエンジンの関係で述べた通り、出力を上げたことによって弊害が出てきます。また、トルクコンバーターは容量を上げなければなりませんのでコストがかかります。トランスミッション、プロペラシャフト、終減速機の方は、当然耐久性が下がります。耐久性が下がるということは部品を頻繁に交換しなくてはなりませんので、ランニングコストがかかります。こうして考えると必要以上の性能を求めることは、その副作用もあるため、各機器は目的にあった大きさ、性能であることが一番と言えます。

4-2) 沿線の線形
これに車輌の特性が合わないと、運転士は大変神経を使うこととなります。例えば25‰の登り勾配が連続していて、速度制限が65km/hのような線区に、いくら高性能の気動車でも70km/hでやっと直結段に入る気動車は使い物になりません。例を挙げると会津鉄道のキハ8500がそれに該当します。終減速比が低すぎて直結1段さえ殆ど投入されないという現象が起こっています。これは沿線の線形と車輌の性格が合っていない結果です。 運転士は何度もノッチを入れたり切ったりして忙しそうでした。"変速"運転が多くて燃費も良くないことでしょう。そんなとき、車輌に合わせて路盤を強化する例があります。高山本線のように、キハ85を高速で走らせるために線路を大改造したのは記憶に新しいところですね。



会津鉄道キハ8500"宝の持ち腐れ"を体感できます

4-3) エンジン馬力の決定
「パワーが欲しい」というのは「今までより…」ということですよね。概ね"速く走りたい"というのが理由の一つです。それでは全く新しい車輌を投入しようとしたときにどうするかというと、エンジンの馬力を決めるにはどれだけの駆動力(牽引力)が必要なのかと、どれだけアクセサリーによる損失馬力があるのかを睨めっこします。アクセサリーとは1-1) 機器の役割を頭に入れておきましょうで挙げたようなエンジンの負担となる機器です。走行抵抗もバカになりません。

かなり曖昧ですが、一般的にアクセサリーよる損失馬力はエアコン用のコンプレッサーの損失を除くと30PS位と言われています。エアコン用のコンプレッサーだけでも30PS位はエンジンから奪ってしまいます。そうなると夏場の場合は60PS位の損失となり、それだけで加速が鈍ることになります。

私が体験したことですが、夏の小海線をキハ110に乗って移動したことがありました。その時、33‰登り、急曲線、満席、冷房投入の悪条件(要するに走行抵抗とアクセサリーの損失馬力が重なった状態です)で50km/hの速度を越えることが出来ず、直結段に切り替わらなかったのです。そこで運転士はどういう行動に出たかというと、"冷房を切る"という手段に出ました。そうしたら列車は加速し始め、見事に直結に切り替わりました。

こんなこともありますので、エンジン馬力決めるのは闇雲に決めることは出来ず、出来るだけエンジンは小型、軽量、安価、経済性、耐久性の優れているものを綿密な計算の元に選定されています。(かといって小海線が安易な選定をしていることは絶対にありませんよ)

4-4) トランスミッションの選定
トランスミッションはtransmit(伝達する)からきています。効率よく伝達すればエンジン馬力は小さくて済みます。闇雲に選定していることはありません。車輪径、終減速比から、登坂力や最高速を目標としてトルクコンバーターの大きさや、切り換え段の組み合わせ(例えば"変変直""変直1直2""変直1直2直3"など)、そして最適な減速比が選定されます。エンジンとトランスミッションがうまくマッチしないと、折角の大馬力も無駄になってしまいます。キハ65とキハ110を比べると、エンジン馬力の大きさはキハ65に軍配が上がりますが、走りは逆転しています。例え話ですが、キハ65にベストマッチする最近の直結多段トランスミッションを開発すれば、きっと走行性能は向上するでしょう。しかし、12気筒もあるエンジン自体が時代にそぐわなくなっていますね。

4-5) メンテナンスのこと
これが案外知られていないことだと思います。JRで言えば、国鉄が分割してJRとなってからは各社で独自に新型車両やリニューアル車輌を考え、そうなったからこそ気動車の飛躍的な進歩が実現されたのですが、その反面、様々な形式が登場して、単純には従来車との混結が出来なくなってきています(混結を目的としたものは除外)。また車輌の使い方(ここでは検査周期)も場所によって違ってきているのではないでしょうか。
メンテナンスとは維持することですから、その周期が延びれば延びる程車輌を所有する側にとっては有り難いことですね。しかしトラックやバスも含めて大型の車両はどれも"整備をしっかり行って使う物"というのが常識となっています。部品の調整、洗浄、交換をしながらということです。その正確な周期は分かりませんが、常に高温にさらされたり高圧で制御する機器がギッシリと詰まっていますので、定期的に分解して検査しなくてはなりません。トランスミッションや終減速機もエンジンも、何年も新車の状態を保てるわけではありません。例えば軸を支える転がり軸受け(ベアリングとも言います)は寿命を持っていて、馬力アップに従ってそれは短くなるものです。
それでは仮にキハのエンジンの馬力を330PSから420PSに上げたとしましょう。420/330=1.27倍の馬力を得たことによって、転がり軸受けの寿命は概算で次の計算のように少なくなります。(実際はもっと複雑な計算なのでこの計算が全てではありません)

(1/1.27)^3.333=0.45倍の寿命

ですから、仮に10000時間の寿命であった軸受けがあったとすると、4500時間の寿命になってしまうことになります。従って検査周期は短くなります。このリスクを背負っても構わないというのであれば馬力アップすることは出来ます。
キハ40系がエンジン換装をされてきていることは既にご存じですよね。どの鉄道誌にも"フルパワーではなくエンジン出力をダウンして使用"書かれています。この理由は上に述べてきたメンテナンス周期も大きく関わっています。JR西日本とJR東日本で搭載機器が同じでエンジン馬力(製作メーカーは問いません)だけが違うのは、このような裏事情があるのではないかと思っています。



"低コスト"現在の車輌のキーワード

4-6) 燃費って重要です
"変速運転"をすると動力の伝達効率が悪いのは2-2) 効率よく加速するための仕組みで説明しました。DW14系のような直結多段型を登場させたのは、加速力アップと最高速の両立というイメージで浸透していますが、変速運転の伝達効率の悪さを解消してエンジンの負担を軽くしようということも理由の一つに挙げられます。盛岡区のキハ110が独ホイト製のトランスミッションで試験をしていましたね。ホイト製のトランスミッションはDW14系よりも高速側まで変速運転をする関係で、燃費が悪かったと思われます。現在はDW14系に換装されてしまいました。それだけ維持するために燃費の占める割合は重要視されているということですね。


5. より快適な走行を…CCSの役割          <Indexへ戻る>

5-1) はじめに
昭和20年代に液体式気動車が登場してから、 気動車をスムーズに走らせることは、エンジニアや鉄道会社の目標であり、現在でもその目標は何ら変わりありません。また運転士にとっては”ガクン”という変速ショックは運転技量の目安であり、操作の失敗が乗客に悟られてしまうという恥ずかしい瞬間でもあります。そもそも変速ショックはなぜ起こるかを考えるとき、 「エンジンとプロペラシャフトの回転差」のことをイメージする必要があります。この回転差が大きいと直結した瞬間に”ガクン”というショックを感じることになります。例えばバトンリレーはバトンを受け取るときに、猛スピードで走ってくる前走者に合わせて助走を付けます。うまく助走しないとバトンをうまく受け取れませんよね。助走がうまくいけばスムーズにバトンが渡せます。なるほど、変速ショックをどうすればなくせるかと言えば、エンジンとプロペラシャフトの回転差を限りなく0(ゼロ)に近づければよいわけです。

年を追う毎に「変速ショックの少なくしたい」から、「変速を自動化したい」、「もっとスムーズに切り換えたい」、「変速ショックを全く無くしたい」、「早くシフトチェンジをしたい」、「空転しにくくしたい」、「運転台でエンジンやトランスミッションの状況を把握したい」など、気動車への要求は厳しくなってきました。

それに応えるのがConverter Control System略してCCSと呼ばれるものです。

気動車の今の動作状況をこのCCSに集中させ、運転士の意識の及ばない部分もCCSが制御してしまいます。例えばフルノッチで起動してもノッチを微妙に調節して空転を抑えたり、シフトチェンジでガクガクしないようにクラッチを繋いだりする制御などがCCSのもっとも得意とするところです。そのお陰で、素人でもベテラン並みの運転が出来るようになってきました。その結果、運転士は安全に集中することが出来るようになり、列車のスピードアップも実現出来るようになりました。 反面、ハンドル技術は下降している印象がありますが…ここでは関係ないことですね。

では気動車のシフトチェンジ方法に目を向けて、進化の過程を追ってみたいと思います。

5-2) 手動変速
この種類に属する形式を簡単にいうと、DF115(A)、TC2(A)、DB115などの歯車を噛み合わせない変速機(逆転機を持っていない変速機)を搭載している車輌です。 キハ17、キハ26、キハ35、キハ58など、多くの国鉄型車輌がこれに該当します。写真のように各々のレバー類は独立していて、単独で操作が可能です。マスコンはエンジンの調速機 (燃料の量を決める機器)に指令を送る役割をします。それから、変直切換レバーは変速機の「中立」「変速」「直結」を指令する役割をします。運転士がマスコンと変直切換レバーの操作 タイミングを誤ると、不快な衝撃を起こしたり、エンジンを空吹かししてしまいます。 すなわち手動変速車は運転士の技量がそのまま列車の動きに出てしまう方式です。

運転の仕方を簡単に説明すると、発進は変直切換レバーを"変"位置にシフトしてマスコンを上げて列車を加速させます。列車の速度が大体50km/hにな ったら直結に入れるため、一旦マスコンを下げます。そしてタイミングを図って変直切換レバーを"直"位置にシフトします。直結が完了すると再びマスコンを上げて加速していきます。"変"から"直"へ切り換えるとき、マスコンと変直切換レバーの動かし方は運転士によって様々で、僅かな操作の違いが不快な挙動を生んでしまいます。

イメージ図をご覧ください。運転士の操作信号は継電器を経由してそのまま床下機器へ伝わります。変中直インジケーター表示は実際には継電器を経由するはずですが、イメージ図では簡略させていただきます。




手動変速車の運転台
(写真はキハ52)
 




DF115,TC2系列の制御
(イメージ図)
 

 

5-3) 半自動変速
私はあえてこれを手動変速と区別してみました。なぜなら、運転士の操作信号は継電器で”切換ショックを軽減するようにうまく制御している”からです。その起源はDW系の変速機を搭載するようになって からで、キハ65、キハ40などに搭載される変速機(逆転歯車を内蔵する変速機)がこれに該当します。運転台は手動変速車と同じレバー類を配置しています。当然のことながら変直切換レバーの操作は運転士の意志で行われますが、 手動変速車とは信号の処理の仕方が異なります。イメージ図のように、継電器の入力信号はマスコンやレバーを動かした電気信号 に加えて、もう一つの信号が入力されています。それはトランスミッションにエンジンとプロペラシャフトの回転比を検出する機構で、 継電器がそれを受け取っていることが追加されています。エンジンとプロペラシャフトの回転比が規定値より大きいとき、継電器はエンジンの調速機に吹き上げ指令を与え、規定値より小さいときはエンジンの吹き上げ無しでクラッチを投入するようにしました。

そのお陰で、完璧とは言えませんが乗客は大きな変速ショックを感じることはなくなりました。しかし先に説明した通り、手動変速車と混結しているときは、運転士はハンドル操作に敏感な手動変速車のことを考えながら運転 する必要があり、それを怠ると手動変速車の乗客に不快感を与えてしまいます。



手動変速車と半自動変速車の混結



イメージ図では、 継電器は入力信号をうまく制御してから床下機器に出力信号を送るので、線色(入力:青色、出力:緑色)を分けています。変中直インジケーター表示は実際には継電器を経由するはずですが、イメージ図では簡略させていただきます。




半自動変速車の運転台
(写真はキハ40)
 




DW系列の制御
(イメージ図)
 


5-4) 自動変速
半自動変速車の制御に、速度に応じた変直切換指令を追加すると自動変速が可能になります。イメージ図も運転台からの変中直シフト指令の信号が消えた以外は半自動変速車と同じです。ただし、継電器は複雑なリレーシーケンスが組まれており、もはや継電器と言うよりコントローラーと呼んだ方が良いかもしれません。

トランスミッションが直結多段化されるようになると、その制御を追加するにはリレーシーケンスでは回路が大変複雑となり、配線も膨大なものとなってしまいます。そのため入出力信号をPC(プログラマブルコントローラー)で演算させるようになりました。PCはCPUとメモリを持 ち、プログラムでリレーを制御するので配線を減らすことが出来ます。制御の変更もプログラムの変更で済むようになりました。 現在、直結多段制御はPC無しでは考えられません。

変→直、惰行→直などのクラッチ嵌入時のショック対策としては、半自動変速車と同じように回転比を検出してエンジンの時間吹き上げを行ないます。あるいは、走行速度からプロペラシャフトの回転数を割り出してエンジンの吹き上げ時間を決定しているかも知れません。

イメージ図は、変直レバー指令信号が不要となる以外は半自動変速車と殆ど同じとなります。変中直インジケーター表示は実際には継電器( またはPC)を経由するはずですが、イメージ図では簡略させていただきます。




自動変速車の運転台
(写真はキハ110)
 




DW系列自動変速車の制御
(イメージ図)
 


5-5) CCS付き自動変速

CCSはPCの延長線上に位置し、車輌を制御するよう専用設計されていますで、車輌メーカーにとっては運転台と走行機器の接続がうんと楽になります。 継電器やPCの代わりに運転士と機器の間はCCSの制御が入り込み、発進時の空転防止やシフトチェンジのクラッチ嵌脱タイミング、エンジンの出力指令(ノッチ段数)もここから発信されます。もはや運転士と機器は機械的に絶縁され 、運転士がどんなに乱暴にマスコンを扱っても平然と列車は前に進みます。ここで注目すべき所は、エンジンとプロペラシャフトの回転数を監視していることです。これはシフトチェンジのショック低減に絶大な効果を発揮します。

変→直、惰行→直など、エンジンとプロペラシャフトに回転差があるとき、そのままクラッチを投入してしまうと乗客は前後に大きく揺すられることになります。それを防止するためにプロペラシャフトの回転数を瞬時に検知して、CCSがエンジンを丁度良い回転数となるように指令を送ります。回転差が少なくなったタイミングを図って今度はトランスミッションにギヤシフト(クラッチ嵌入)指令を送り、めでたく直結シフトの完了となります。これを同期制御といいCCSの最大の特徴と言えます。

イメージ図が全ての信号ではなく、この他にも色々な情報を入出力させています。故障診断や機器の動作状況を運転台にモニターすることも可能で、 車輌に搭載する前にどんな情報を入出力させるのか製作メーカーとユーザーが話し合うことになります。こうした自由度も電子制御ならではの威力ですね。




自動変速+CCS車の制御
(イメージ図)
 

5-6) CCS付き半自動変速
国鉄時代のDW系トランスミッション車で、CCS化改造が施された車輌があります。ピンと来た方は多いかと思いますので運転台とイメージ図は省略致します。要は半自動変速車同期制御を組み入れたようなものです。JR東日本の車輌では”CCS搭載車”というシールが貼られている車輌もあるようです。継電器制御と比較すると、エンジンの無駄な吹け上がりが無く、実際に乗客になって耳を澄ませていると、エンジンの挙動の違いを体感することが出来ます。

私としては豪快に吹け上がる非CCS車の方がワクワクしますけど…。



CCS化が進む旧国鉄車
(写真の車輌はCCS車ではありません)

5-7) さらなるスピードアップへ
ここでお話しすることは最高速度や加速力のことではなく自動変速車のシフトチェンジ(変直切換)速度のことです。従来は、シフトチェンジをするときはエンジンからの動力を一旦切り離して同期制御を行っていました。つまりパワーオフシフトでした。パワーオフシフトの加速イメージはトラックやバスのマニュアル車(MT車)をイメージすればいいと思います。人によっては加速のリズムがあって気持ちいいと感じるのではないでしょうか。この私もMT車の加速リズムは人間の本能に合っていると思います。

それと比較してオートマチック車(AT車)の加速感を思い出してください。MT車のような加速の断続(リズム)を感じることはありませんね。これをパワーオンシフトと呼ばれています。AT車は加速し続けるわけですから、当然ながら目標速度に要する時間が少なくなるわけです。

パワーオンシフトを列車に採用すればシフトチェンジのロスタイムが少なくなりますので、早く目標速度に到達することが出来ます。山坂の多い日本は、いかに列車を目標速度に乗せるかがカギとなり、振り子車体と組み合わせれば列車の評定速度も向上させることが可能となります。気動車特急の多くはエンジンの出力だけでなく、パワーオンシフト+振り子の機能を持っている理由はそのようなところにあります。

しかし、パワーオンシフトには弱点があります。それはシフトチェンジ時のショックを抑えること、つまりエンジンとトランスミッションの回転数の連携を取ることが大変なのです。例えば、直結1段で加速中にいきなり直結2段にシフトチェンジしたらどうなるでしょう。エンジンの回転数は瞬間的に直結2段のクラッチに抑えられることになります。結果は変速ショックとなり、乗客は不快な思いをすることになります。そのため、パワーオンシフトは 細かく切換タイミングを調整する必要があります。さらにギヤ比の差が大きいと制御が難しくなりますので、直結多段でも 各々の段のギヤ比の差が少ない3段や4段の速度段をもつトランスミッションに限られています。

パワーオンシフトもCCSがあるからこそ実現出来たはずです。これからどんな方向に発展するのか、違うものに変えられるのか、エンジニア達に期待したいと思います。


6. 終わりに          <Indexへ戻る>

まだまだ続きがあるのですが、もう少し勉強してからにしたいと思います。今回は気動車が走るに必要な機器や、どのようなことに着目すれば気動車を理解できるかを、私なりに思いつきで吐き出してみました。エンジンだけに囚われていると気動車の知識はちっとも前進しません。多くの鉄道誌がエンジンの馬力やトランスミッションの形式名しか着目していないのが現状です。そこで私はもう少し突っ込んでみました。エンジンと一緒になって動く様々な機器(コンプレッサー、ラジエーターなど)や、車輌を効率よく加速させるために考えられていること(トランスミッションの減速比など)、車輌を維持する側への配慮(最大馬力の規制など)、より良い乗り心地を目指して取り付けられている機器(CCSなど)があることがお解りになったことと思います。しかし、この知識は既に古いものかもしれません。最新党の気動車はコンプレッサーを回すベルトがなかったりします。冒頭にも書きましたが、皆さんがご自分で気動車に乗って観察するのが一番良いでしょう。非電化線区の頼もしい味方としていつまでも愛されて、どんどん進化することを望んでいます。進化しすぎて気動車が無くなってしまうかもしれないですけど…。

このページはM.Iwamotoさんのご厚意により実現されました。ありがとう、感謝しています。それから私に知識を分けてくださった方々や、一緒に取材をして下さった方々にもこの場を借りてお礼申し上げます。

Honey Watanabe

初版    2002年11月
第二版 2003年12月
第三版 2005年7月


なお、電車の走る仕組みに関しては、高橋うさお氏の“BVE工学研究室 〜通過信号機の宴〜”内の“力行特性研究室”にて解りやすく解説されています。是非とも御覧下さい。

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この記事は、Honey Watanabe氏に執筆を依頼し、原稿を提供して頂きました。ご意見、ご感想、ご質問など、お問い合わせにつきましてはHoney Watanabeのホームページよりお確かめ下さい。

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